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14・ロンドンで得た「思わぬ収穫」をバネに作り上げた意欲作『FREDERICK』発表。
FREDERICK


ビデオ撮りやって学んだんだ。
演技してても自分を自然に出せばいいって。


フレデリックのデビュー・アルバム『FREDERICK』が6月21日にEPICソニーより発表される。イギリスの音楽をルーツに持つ彼らがロンドンで仕上げた、このアルバムは人に訴えかける力を秘めている。


環境が変わるだけでどの音を出したいかも変わる。

ロンドン行きはメンバーから提示されたレコーディングの条件だったという。それほどまでにロンドンに対する思い入れが強かったようだ。

まだ肌寒い3月下旬。日本でのレコーディングを終えた彼らはTDとビデオ録りのためロンドンへと旅立った。
――ロンドンでの仕事はまずTDから始まったわけですね。
片岡 そうですね。一曲だけ歌を録り直したけど…。「口笛を吹きながら」って曲。
柳川 東京でさんざん苦労して録った曲なんだけど、やっぱり直そうということになって、やってみたら15分で終わって……やたら調子がよかったんだよ、この人(笑)。
――TDという作業について、日本と英国の違いってありました?
富沢 器材とかはたいして変わらないんだけど、ロンドンでライヴを見に行ったんだ。その時の音がよくて……。高い音や低い音のレンジがあるでしょう?その幅がすごくあって、それを見たことでTDに少なからず影響があった。ロンドンに来てからの刺激とかも音作りに反映したと思うしね。
岩島 ほんとにそうだね。向こうですごくいいライヴを見れたことで、TDの感覚に足りなかったものが自然に見えてきたし。
――思わぬ収穫があったと?
片岡 うん。TDって結局、録り終った音のバランス調整なんだけど、バランスって本当はすごく大切なことで……環境が変わるだけでどの音が出したい音かが違ってくるんだよね。東京にいた時とはまた違った感覚だったな。
柳川 耳が肥えた状態になったから……予想外の収穫はすごくあったね。
――そして出来上った音をもとにビデオ録りをしたわけですよね。
片岡 そう。ブライトンやハイドパークでロケやって……テームズ川のほとりとかもね。面白かったよ、日の丸とユニオンジャック持って走ったの(笑)。南の方の郊外とかは景色がきれいで感動しちゃったよ。
岩島 顔の黒い羊とかいて、それがすっごくラブリーなんだよ(笑)。
――ブライトンと言えば「さらば春青の光」ですが、場所の指定とかは自分たちで?
片岡 そうだね。ブライトンは行こう!って。「さらば〜」に出てきた名物おじさんで、冬に海で泳いじゃう人がいるんだけど、その人いたんだよ。泳いでんの、寒いのに(笑)。でもビデオ録りで本当に大変だったのはスタジオでの撮影でね、12時間も真っ暗な中でおなじことして……踊ったりとかね。大変だった。
岩島 でもその撮影で学んだことって多かった。口パクだし、演技だよね。その中で自然な動きを出すってこと、自分を自然に出すってこと。それがすごくよくわかった。
片岡 スタッフの人も真剣で、ライティングひとつで照明と撮影の人が大ゲンカするんだよ。それだけ気合いが入ってて……ナアナアの部分が何ひとつないんだよね。だから俺たちもそれに応えなきゃって、どんどん気合いが入っていくんだ。それが本当は当り前のことなんだろうけど、感動したよね。
柳川 口パクでやってんのにスタッフの人たちとか踊り始めちゃってサ。言葉もろくすっぽ通じないのにすごくテンション高くって。ライヴみたいな感覚だった。気持ちが入ったよ。
――実際、ロンドンではライヴもやって。
岩島 その時がまたいいライヴができたんだよー(笑)。演奏うんぬんより精神的な意味でね。ビデオの時のスタッフも何人か来てくれて……ボクはライヴと撮影は同じものが出来たと思ってて、それが(彼らにも)通じたみたいで、うれしかった。すごく。
片岡 ブリクストンにあるライヴ・ハウスでやったんだよね。向こうの情報誌にも出て、いろんな人……在住の日本人とかも見に来てくれたよ。マクテルズっていう向こうのバンドと対バンしたんだけど、基本的に言葉は通じないでしょう? だからバンドのフィーリングがすごく大切で、テンションが高いとお客もそれに応えてくれる。ある意味、すごくシンプルなんだよね。“俺はここにいるんだー!!”ってエネルギーをぶつけるとそれが返ってくる。
岩島 なんかクッセー話だけど“俺はここでやるためにベース弾いてきたんだ!”って思ったの。笑っちゃうでしょう?でもほんとにそうだったんだよ。やっぱストーンズやビートルズやいろいろなバンドが生まれたロンドンで、自分がやってるのが信じられなくて、“俺は何やったらいいんだ?自分を出せばいいんだ!”って。そしてそれが出来たんだよね。あんな気持ちいいことはなかった。気持ちいいだけじゃなくって、いいライヴが出来たんだ。

フレデリックのサウンドはフォーク・ロックやカントリーのエッセンスを持ったアコースティックかつエネルギッシュな音だ。また、音と同化する自然な歌詞は人間のあるべき姿を見つめさせてくれる。根本にあるのは“もっと人生を楽しもうよ”ということだ。情報やニュースばかりに躍らされていないで、もっと自分の足もとを見つめよう――そこにある身のまわりのよいことを楽しんで生きようじゃないか――そう問いかけてくる。豊かさの中で失なってしまった何かを呼びさまさせてくれるように、優しく、激しく、とても自然な形で表現する。

素直ではない私は良識的な意見に反発を持ちがちである。良識が悪いと言うのではなく、押し付けられるのはゴメンだ!という感情で、いわゆるメッセージ・ソングと呼ばれるものは自分の好みではない。さて、フレデリックだが、彼らの詞は確実にメッセージを持つ。先に言ったようなことだ。

不思議なことだが彼らの言葉には何ら反感を抱かないどころか、うーんとうなってしまっている。それはもちろんメッセージの内容も関係するのだが、何より大きいのは彼らの視点である。私達が普段何とも思わない街中の1シーンを真っ直ぐ見つめ、そのまま情景として映し出す彼らの手法は、私たちに新たな発見―見ているようで何も見ていなかったこと―を思い知らせてくれる。例えば駅前の1シーン。「募金はしないけど/ティッシュペーパーはもらう/献血はしないけど/全ての人を愛せるさ」(LOVE)…これは浮浪者を横目に無視して募金をする人々の偽善を歌ったもので、今回のアルバムに収録されている。

彼らがロンドンへと旅立った直接的な理由は、単に憧れのミュージシャンの出身地であり、好きだった音楽の発生地である興味からだが、この彼らの視点はロンドンの生活の中でも変わらずに働き、思わぬ発見や収穫を得た。

私自身も現地で彼らと合流し、彼ららしい生活スタイルにふれるとともに、感動を共有させて頂いており、中でも印象的だったのは公園を2時間散歩したことである。観光に忙しいそこら中の日本人を尻目に、何もない、ただ緑が広がる公園で鳥を見つめ、木々を眺め、花を、犬を、馬を、馬ふんを(笑)見て笑って過ごす。その場所、場所で最上級の楽しみ方を、当り前にやってしまう。スピード情報時代の今、彼らは時勢と逆を向いているかもしれない。だけど――
「乗り物の速さはどんどん速くなり/人の心はどんどん貧しくなる/僕にはついていけないこの世界」(ついて行けないこの世界)

どちらが人間として豊かであるかは、明確であると思うのだ。

(取材・文/中込智子)
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